読書録:飯田洋介 (2015) 『ビスマルク ドイツ帝国を築いた政治外交術』

先日の、 ヴィルヘルム2世の評伝に引き続いて、 今度はビスマルク。 前回は、若き皇帝と対立して退く、 という晩年のみの登場だった。 そこで、そもそも彼がどのようにドイツ帝国の宰相まで上り詰めたのか、と気になってこちらを読む。 

例によって、私がビスマルクについて知っていることといえば、 「プロイセンによるドイツ統一を果たし、欧州各国との複雑な同盟によって、最大のライバルであるフランスを孤立させた外交官」という程度である。本書を読んで最も驚いたのは、ドイツ統一はビスマルクの悲願ではなかった、ということだ。教科書から受けた印象とはだいぶん異なる。

彼が尊重したのはあくまでプロイセンであり、統一が成った後は「プロイセン国王が皇帝を兼ねる」 ドイツ帝国を守ろうとした。 ドイツとしてのアイデンティティを求めるナショナリズムの風潮はむしろ対立する考えであったにもかかわらず、これを利用して、プロイセンの権威を守ったことに、ビスマルクの凄みがあると知った。

「ビスマルク体制」と称される複雑な同盟網にしても然りで、当初から、フランスを孤立させるために、 緻密な計画を立てて外交戦を行ったのではない。こんにちの我々がビスマルクの功績だと認識する歴史は、 国際情勢に合わせ、機敏に弥縫策を展開したことで、 結果的に紡がれたものだった。

現実に立脚しながら柔軟な対応を取る、 こうした政治姿勢について、 著者は「術 (クンスト)」と評する。クンスト ("Kunst") には 「芸術」 という意味もあるそうだ。 自身の能力と信念に対する確信に従い、マキャベリ的に仕事をする様からは、 芸術的な情熱を感じられる。

同盟関係の構築にあたって、 大国間で小国のキリトリをする様は、 古くも見える。が、ロシアがウクライナを侵略し、 米中の 「G2」 も論じられる昨今の情勢にあっては、むしろ現代的とすらいえてしまうのかもしれない。 

声高に理想論を唱えるだけでは物事を動かせない。時には、俗っぽい利益や実力を利用しなければならないこともある。 偉大な「現実政治家」 の足跡から、この世の厳しさを学んだ。